スタートアップの立ち上げ期、共同創業者との関係は会社の命運を左右します。「仲の良い友人だから大丈夫」「まずは事業を前に進めることが先決」——そう思って創業者間契約を後回しにした結果、取り返しのつかないトラブルに発展した事例は珍しくありません。
この記事では、スタートアップ東京が資本政策の観点も交えながら、創業者間契約で決めておくべき5つのポイントを解説します。会社設立のタイミングで一緒に整えておくことで、将来のリスクを大幅に低減できます。
📋 この記事で分かること
- ① なぜ創業者間契約が必要なのか
- ② いつ締結すべきか
- ③ 必ず盛り込む5つの条項
- ④ よくある「穴」のある条項
- ⑤ 資本政策との連動
①なぜ創業者間契約が必要なのか
共同創業者との関係が崩れるのは、事業がうまくいかないときだけではありません。むしろ、事業が軌道に乗り始め、VC(ベンチャーキャピタル)の出資を検討し始めた段階で、水面下の対立が表面化するケースが多いのです。
VCは投資判断の際に、創業者間の株主構成や意思決定ルールを必ず確認します。このとき「創業者間契約を締結していない」「持株比率の合理的な根拠がない」という状態では、デューデリジェンス(投資審査)で大きなリスクと見なされ、出資に支障をきたすことがあります。
こうした事態を防ぐために機能するのが、創業者間契約です。日本では法的に義務付けられた書面ではありませんが、スタートアップの実務では「会社設立と同時に締結する」ことが世界標準となっています。
②いつ締結すべきか
理想的なタイミングは、法人設立の前後です。設立前であれば「出資比率をどうするか」という議論と並行して締結でき、もっとも摩擦が少ない状態で合意形成できます。
すでに会社を設立済みの場合も、次のステップ(資金調達、採用強化、事業拡大)に入る前に締結するのが現実的なタイミングです。
⚠️ VC入り後では交渉が難しくなる
VCが株主になった後、あるいはストックオプション(SO)の発行を検討し始めた段階では、創業者間の株式移動に関する条項は第三者の利害が絡み、交渉が格段に複雑になります。締結するなら「外部株主が入る前」が鉄則です。
③必ず盛り込む5つの条項
① ベスティング条項——辞めた創業者が株を抱えるリスクを防ぐ
ベスティング(Vesting)とは、一定期間・条件を満たすことで株式を確定させる仕組みです。欧米のスタートアップでは「4年間在籍で100%確定、1年目はクリフ(崖)」という設計が標準的です。
ベスティング条項がないと何が起きるか。たとえば創業者Bが設立1年で離脱した場合、Bは何もしていなくても創業時に取得した20〜30%の株式をそのまま保有し続けます。残った創業者は少数株主のBの同意が必要な局面で身動きが取れなくなり、投資家も「デッドウェイト株主がいる」と判断してしまいます。
| 在籍期間 | 確定割合 |
| 1年未満 | 0%(クリフ) |
| 1〜4年 | 月次で按分確定 |
| 4年以上 | 100%確定 |
なお日本では、ベスティングを株式そのものに設定するより「一定条件下での株式の売渡請求権」として設計するケースが多く、定款や株主間契約と組み合わせて構成します。
② 離脱時の株式買取権・売渡請求権
原則として、一度保有した株式を一方的に取り上げるようなことはできません。
創業者の一人が会社を去る際、その株式を誰が・いくらで・どのタイミングで買い取るかを事前に定めておく条項です。会社を去ることになる理由も意見の対立に限らず、個人的な事情、死亡など様々です。
その中で「買取価格をどう算定するか」が最大の争点になります。設立直後は時価がほぼゼロでも、数年後には億単位になっている可能性があり、算定方法(簿価・DCF・協議など)を明示しておかないと必ず揉めます。
買取権の設計で決めるべき主な項目は以下のとおりです。
- 誰が買取の権利を行使できるか(中心的な創業者、残存創業者全員・会社・第三者)
- 任意退職・解任・死亡・能力喪失などケース別の取り扱い
- 買取価格の算定基準と算定時点
- 支払い方法・猶予期間
③ 役割・報酬・意思決定権の明確化
「創業者同士だから対等」という感覚のままにしておくことが、長期的な関係崩壊のもっとも多い原因です。誰がCEOで、誰がCTOか。誰が何の決定権を持つか。報酬はどう設定するか。これらを曖昧にしたまま進むと、事業が成長するにつれて「こんなはずではなかった」という不満が蓄積します。
- 代表権を持つ者とその変更条件
- 業務執行に関する各自の権限範囲
- 報酬の決定プロセスと変更ルール
- フルコミットメント義務(副業・兼業の制限)
④ デッドロック条項——意見が割れたとき誰が決めるか
創業者間で50:50の持株比率である場合(あるいは意見が真っ向から対立した場合)、株主総会や取締役会で決議が成立しない「デッドロック」状態が起きることがあります。
- キャスティングボート:特定の役職者(代表取締役など)に最終決定権を付与
- ロシアンルーレット条項:一方が価格を提示し、他方が買う/売るを選択する
- 第三者仲裁:顧問弁護士・投資家・外部有識者が仲裁
- 冷却期間:一定期間協議を継続し、なお解決しない場合に会社清算・株式売却を検討
⑤ 競業避止・秘密保持
創業者が在籍中・退職後に競合事業を立ち上げたり、顧客・技術情報を持ち出したりするリスクを防ぐための条項です。
- 対象地域・対象業種を具体的に限定する
- 禁止期間は在職中+退職後1〜2年以内が一般的
- 保護すべき情報の範囲を明示する(顧客リスト・技術ノウハウ・事業計画など)
- 違反した場合の損害賠償に関する条項
④よくある「穴」のある契約——チェックポイント
専門家に依頼せず作成した創業者間契約でよく見られる「抜け穴」をまとめます。締結前に必ず確認してください。
| チェック項目 | 見落としがちなポイント |
|---|---|
| ベスティングなし | 離脱した創業者が株を永久保有。VC入り前後に問題化することが多い |
| 買取価格が「協議による」 | 協議が成立しない前提で仕組みを作っていない。最悪、訴訟へ |
| 退職後の競業禁止が「5年・全業種」 | 範囲が広すぎて無効になるリスク。合理的な範囲に限定を |
| デッドロック条項がない | 意見対立が会社の意思決定を完全に止める。50:50出資に特に必須 |
| 定款と不整合、法令違反 | 創業者間契約の内容が定款・法令の規定に反していると実効性がない |
⑤資本政策と一緒に考える——スタートアップ東京の視点
創業者間契約は、単なる「仲間内のルール書き」ではありません。持株比率・ベスティング設計・種類株の発行条件——これらはすべて資本政策と直結しており、将来のIPO(上場)やM&Aを見据えた設計が必要です。
たとえば「ベスティングをどう設計するか」は、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が取れるかどうかに影響し、重要な経営判断のスピードに直結します。また、創業時の持株比率が、将来の資金調達ラウンドでの希薄化(ダイリューション)にどう影響するかも、設立段階から考えておく必要があります。
スタートアップ東京は、会社設立を「資本政策のスタート」として捉え、設立手続きと並行して創業者間の合意形成をサポートしています。司法書士・税理士・公認会計士が連携し、法的書類の整備から資本政策の設計まで一貫して対応します。
💡 会社設立と同時に整えるべきリスト
- ✅ 持株比率の設計と根拠の言語化
- ✅ 創業者間契約(ベスティング・買取権・競業避止)
- ✅ 定款への反映の要否(株式の売渡請求・種類株式等)
- ✅ 資本政策表の作成(シード〜上場までのシミュレーション)
まとめ
創業者間契約で決めておくべき5つのポイントをまとめます。
- ベスティング条項:離脱した創業者が株を抱え続けるリスクを防ぐ
- 株式買取権・売渡請求権:離脱時の買取ルールと価格算定を明示する
- 役割・報酬・意思決定権:「対等」の曖昧さをなくす
- デッドロック条項:意見対立時の解決メカニズムを用意する
- 競業避止・秘密保持:退職後の情報漏洩・競合参入を防ぐ
これらは、会社設立と同時に整えることで最大の効果を発揮します。「まだ早い」と思っているうちに、後からでは修正できない状態になるのがスタートアップの創業期の特徴です。
資本政策と創業者間契約、一緒に整えませんか?
スタートアップ東京は、会社設立から資本政策・IR支援まで一貫してサポートする専門チームです。
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