共同創業者と後悔しないために——創業者間契約で絶対に決めておくべき5つのこと

スタートアップの立ち上げ期、共同創業者との関係は会社の命運を左右します。「仲の良い友人だから大丈夫」「まずは事業を前に進めることが先決」——そう思って創業者間契約を後回しにした結果、取り返しのつかないトラブルに発展した事例は珍しくありません。

この記事では、スタートアップ東京が資本政策の観点も交えながら、創業者間契約で決めておくべき5つのポイントを解説します。会社設立のタイミングで一緒に整えておくことで、将来のリスクを大幅に低減できます。

📋 この記事で分かること

  • ① なぜ創業者間契約が必要なのか
  • ② いつ締結すべきか
  • ③ 必ず盛り込む5つの条項
  • ④ よくある「穴」のある条項
  • ⑤ 資本政策との連動

①なぜ創業者間契約が必要なのか

共同創業者との関係が崩れるのは、事業がうまくいかないときだけではありません。むしろ、事業が軌道に乗り始め、VC(ベンチャーキャピタル)の出資を検討し始めた段階で、水面下の対立が表面化するケースが多いのです。

VCは投資判断の際に、創業者間の株主構成や意思決定ルールを必ず確認します。このとき「創業者間契約を締結していない」「持株比率の合理的な根拠がない」という状態では、デューデリジェンス(投資審査)で大きなリスクと見なされ、出資に支障をきたすことがあります。

【実例シナリオ】シリーズAの増資直前、共同創業者AとBの間で役割・報酬の不満が噴出。Bが離脱したが、創業者間契約がなかったため、Bが保有する30%の株式を誰も買い取れず、投資家との交渉が暗礁に。結果、ラウンドを半年先送りに。

こうした事態を防ぐために機能するのが、創業者間契約です。日本では法的に義務付けられた書面ではありませんが、スタートアップの実務では「会社設立と同時に締結する」ことが世界標準となっています。

②いつ締結すべきか

理想的なタイミングは、法人設立の前後です。設立前であれば「出資比率をどうするか」という議論と並行して締結でき、もっとも摩擦が少ない状態で合意形成できます。

すでに会社を設立済みの場合も、次のステップ(資金調達、採用強化、事業拡大)に入る前に締結するのが現実的なタイミングです。

⚠️ VC入り後では交渉が難しくなる

VCが株主になった後、あるいはストックオプション(SO)の発行を検討し始めた段階では、創業者間の株式移動に関する条項は第三者の利害が絡み、交渉が格段に複雑になります。締結するなら「外部株主が入る前」が鉄則です。

③必ず盛り込む5つの条項

① ベスティング条項——辞めた創業者が株を抱えるリスクを防ぐ

ベスティング(Vesting)とは、一定期間・条件を満たすことで株式を確定させる仕組みです。欧米のスタートアップでは「4年間在籍で100%確定、1年目はクリフ(崖)」という設計が標準的です。

ベスティング条項がないと何が起きるか。たとえば創業者Bが設立1年で離脱した場合、Bは何もしていなくても創業時に取得した20〜30%の株式をそのまま保有し続けます。残った創業者は少数株主のBの同意が必要な局面で身動きが取れなくなり、投資家も「デッドウェイト株主がいる」と判断してしまいます。

在籍期間 確定割合
1年未満 0%(クリフ)
1〜4年 月次で按分確定
4年以上 100%確定

なお日本では、ベスティングを株式そのものに設定するより「一定条件下での株式の売渡請求権」として設計するケースが多く、定款や株主間契約と組み合わせて構成します。

② 離脱時の株式買取権・売渡請求権

原則として、一度保有した株式を一方的に取り上げるようなことはできません。

創業者の一人が会社を去る際、その株式を誰が・いくらで・どのタイミングで買い取るかを事前に定めておく条項です。会社を去ることになる理由も意見の対立に限らず、個人的な事情、死亡など様々です。

その中で「買取価格をどう算定するか」が最大の争点になります。設立直後は時価がほぼゼロでも、数年後には億単位になっている可能性があり、算定方法(簿価・DCF・協議など)を明示しておかないと必ず揉めます。

買取権の設計で決めるべき主な項目は以下のとおりです。

  • 誰が買取の権利を行使できるか(中心的な創業者、残存創業者全員・会社・第三者)
  • 任意退職・解任・死亡・能力喪失などケース別の取り扱い
  • 買取価格の算定基準と算定時点
  • 支払い方法・猶予期間

③ 役割・報酬・意思決定権の明確化

「創業者同士だから対等」という感覚のままにしておくことが、長期的な関係崩壊のもっとも多い原因です。誰がCEOで、誰がCTOか。誰が何の決定権を持つか。報酬はどう設定するか。これらを曖昧にしたまま進むと、事業が成長するにつれて「こんなはずではなかった」という不満が蓄積します。

  • 代表権を持つ者とその変更条件
  • 業務執行に関する各自の権限範囲
  • 報酬の決定プロセスと変更ルール
  • フルコミットメント義務(副業・兼業の制限)

④ デッドロック条項——意見が割れたとき誰が決めるか

創業者間で50:50の持株比率である場合(あるいは意見が真っ向から対立した場合)、株主総会や取締役会で決議が成立しない「デッドロック」状態が起きることがあります。

  • キャスティングボート:特定の役職者(代表取締役など)に最終決定権を付与
  • ロシアンルーレット条項:一方が価格を提示し、他方が買う/売るを選択する
  • 第三者仲裁:顧問弁護士・投資家・外部有識者が仲裁
  • 冷却期間:一定期間協議を継続し、なお解決しない場合に会社清算・株式売却を検討
持株比率を意図的に51:49に設計し、デッドロックを構造的に防ぐという資本政策も有効です。ただしこの場合、少数株主側(49%)が不満を持ちやすいため、意思決定プロセスの透明性を高める工夫が求められます。

⑤ 競業避止・秘密保持

創業者が在籍中・退職後に競合事業を立ち上げたり、顧客・技術情報を持ち出したりするリスクを防ぐための条項です。

  • 対象地域・対象業種を具体的に限定する
  • 禁止期間は在職中+退職後1〜2年以内が一般的
  • 保護すべき情報の範囲を明示する(顧客リスト・技術ノウハウ・事業計画など)
  • 違反した場合の損害賠償に関する条項

④よくある「穴」のある契約——チェックポイント

専門家に依頼せず作成した創業者間契約でよく見られる「抜け穴」をまとめます。締結前に必ず確認してください。

チェック項目 見落としがちなポイント
ベスティングなし 離脱した創業者が株を永久保有。VC入り前後に問題化することが多い
買取価格が「協議による」 協議が成立しない前提で仕組みを作っていない。最悪、訴訟へ
退職後の競業禁止が「5年・全業種」 範囲が広すぎて無効になるリスク。合理的な範囲に限定を
デッドロック条項がない 意見対立が会社の意思決定を完全に止める。50:50出資に特に必須
定款と不整合、法令違反 創業者間契約の内容が定款・法令の規定に反していると実効性がない

⑤資本政策と一緒に考える——スタートアップ東京の視点

創業者間契約は、単なる「仲間内のルール書き」ではありません。持株比率・ベスティング設計・種類株の発行条件——これらはすべて資本政策と直結しており、将来のIPO(上場)やM&Aを見据えた設計が必要です。

たとえば「ベスティングをどう設計するか」は、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が取れるかどうかに影響し、重要な経営判断のスピードに直結します。また、創業時の持株比率が、将来の資金調達ラウンドでの希薄化(ダイリューション)にどう影響するかも、設立段階から考えておく必要があります。

スタートアップ東京は、会社設立を「資本政策のスタート」として捉え、設立手続きと並行して創業者間の合意形成をサポートしています。司法書士・税理士・公認会計士が連携し、法的書類の整備から資本政策の設計まで一貫して対応します。

💡 会社設立と同時に整えるべきリスト

  • ✅ 持株比率の設計と根拠の言語化
  • ✅ 創業者間契約(ベスティング・買取権・競業避止)
  • ✅ 定款への反映の要否(株式の売渡請求・種類株式等)
  • ✅ 資本政策表の作成(シード〜上場までのシミュレーション)

まとめ

創業者間契約で決めておくべき5つのポイントをまとめます。

  • ベスティング条項:離脱した創業者が株を抱え続けるリスクを防ぐ
  • 株式買取権・売渡請求権:離脱時の買取ルールと価格算定を明示する
  • 役割・報酬・意思決定権:「対等」の曖昧さをなくす
  • デッドロック条項:意見対立時の解決メカニズムを用意する
  • 競業避止・秘密保持:退職後の情報漏洩・競合参入を防ぐ

これらは、会社設立と同時に整えることで最大の効果を発揮します。「まだ早い」と思っているうちに、後からでは修正できない状態になるのがスタートアップの創業期の特徴です。

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押田 健児(Kenji Oshida)

司法書士 / 司法書士法人オネスト 代表

大手司法書士事務所にて実務経験後、2009年に独立、2012年に司法書士法人オネストを設立。創業から資金調達、ストックオプション発行、IPO、株式公開後まで、各段階において商業登記を軸に会社法・企業法務周りの支援を提供。「よくわかる株式公開と引受審査の実務」(清文社、2006)執筆参加。

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