こんにちは。スタートアップ東京です。
スタートアップ支援を専門とする公認会計士・税理士として、私たちは定期的に新規上場企業の公開資料を読み解き、その裏にある「投資家を熱狂させた物語(エクイティ・ストーリー)」を分析していきます。
第1回目は、2025年11月に東証グロース市場へ上場したクラシコ株式会社(証券コード:442A)です。
主力商品は、白衣とスクラブ。誰もが「成熟しきった産業」だと思っていたメディカルアパレル市場で、なぜクラシコはテック企業並みの高評価*を得られたのか。
* 公開価格PER 57.6倍
その答えは、数字の強さだけではありません。「物語の設計」にあります。
医療従事者が、自分らしくあるための
ファッションである。」
優れたエクイティ・ストーリーには、たった一つの「ビッグ・アイデア」が必要です。
クラシコの場合、それは「市場そのものを再定義すること」でした。
白衣を「消耗品」から「ファッション」へ。
その発想の転換が、投資家の目線を根本から変えたのです。
1. 共感を生む「エクイティ・ストーリー」
投資家は論理で納得し、感情で決断します。
だから優れたエクイティ・ストーリーは、必ず「原点の問い」から始まります。
クラシコの場合、その問いはシンプルでした。
「なぜ、誰もかっこいい白衣を作らないのか。」
── 創業者・大和新が、友人の医師の言葉を聞いて抱いた疑問。2008年、クラシコの原点。
2008年当時のメディカルアパレル業界は、リネン代理店経由で病院に納入する「制服」が主流でした。品質よりも耐久性。デザインよりも価格。医療従事者が自ら選ぶ余地は、ほとんどありませんでした。
その問いに向き合い、クラシコは「作業着としての白衣」を「仕事着・ファッションとしての白衣」へ昇格させることを事業の核に据えました。
袖を通した瞬間の、気持ちの高まり。
背筋を伸ばして歩める、誇りと自信。
(中略)
過酷な環境の中でも、全力で目の前の患者と向きあっている。
そんな医療従事者たちの、心の温度を上げるために。
そして、その先にいるひとりひとりにまで、
高揚が広がる景色をつくるために。
これは、ポエムではありません。金融庁へ提出された「有価証券届出書」に記載された、クラシコの経営方針です。
「機能的な服を売る」とは一言も言っていない。「医療従事者の心の温度を上げること」、そしてその先にある「患者との関係性を変えること」を事業として定義している。
この言葉に触れたとき、投資家は「アパレルメーカー」ではなく、「医療の質を変えるソーシャル・カンパニー」としての未来を見たはずです。
そして、このミッションは「語られた言葉」だけに留まりませんでした。
数字がそれを証明しています。
(2024/10期)
(2024/10期)
(5年CAGR)
医師調査 ※
※ メディカルヘルステクノロジーズ社調査(n=419, 2024年7月)「一番着てみたい・おしゃれだと思う白衣」においてClassico 49pt、次点21ptで断トツ1位。
粗利率52.4%は、一般的なアパレル企業(30〜40%台)を大きく上回ります。リピート率51.9%は、ブランドへの「信頼」ではなく「熱狂」があることの証左です。
ミッションが本物であることを、市場が答えているのです。
2. 記憶に残る「成長戦略」
感情で共感を得た後は、論理で「勝ち筋」を示す番です。
クラシコの成長戦略が秀逸なのは、比較軸を巧みに設定したことにあります。
① 「医療界のlululemon」というポジショニング
有価証券届出書の中で、クラシコはあるスライドを提示しています。
カテゴリーを制したブランドたち
スマートフォン → Apple
ランニングシューズ → On / ASICS
ヨガウェア → lululemon
メディカルアパレル → Classico
この比較は戦略的です。競合他社と並べるのではなく、「カテゴリーを再定義したブランド」と同列に置くことで、クラシコが目指す世界観と、その達成可能性を投資家に伝えています。
lululemonはヨガウェアを「スポーツ用品」ではなく「ライフスタイル」に変えた。クラシコは白衣を「制服」ではなく「ファッション」に変える。この類推が成立した瞬間、投資家のバリュエーションの基準は「ユニフォームメーカー」から「プレミアムブランド」へと切り替わります。
そして、このポジションを守る最大の武器が「直接販売」です。
競合他社がリネン代理店経由でリース販売するのに対し、クラシコは創業当初から自社ECと直営店で個人の医療従事者に直接販売してきました。この選択が、二つの強固な優位性を生みました。
- 顧客データの蓄積:購買データ・フィードバックを直接取得し、素材開発や商品改善に即反映できる。競合が持ちえない資産。
- toCからtoBへの自然な流入:個人として愛用した院長・理事長が、自院の制服もClassicoにする。toC販売が、toBの法人受注を生む好循環。
② グローバルIPコラボ × 海外展開の再現性
投資家が最も期待する「アップサイド(上振れ余地)」は、海外展開です。
ここでクラシコが提示した戦略は、単なる「海外進出」ではありませんでした。
注目すべきは、ポケモン・ワンピースとのコラボレーションです。
多忙な医療従事者が好むキャラクターIPを白衣・スクラブに落とし込んだ「SCC(スクラブキャンパスコレクション)」は、国内での話題を生んだだけでなく、海外での反響が特に大きく、グローバル展開の武器になっています。日本発のポップカルチャーが、白衣を国境を越えたコミュニケーションツールへと変えました。
そして、その成果は数字に表れています。
グローバル会員数:8.2万人(2024/10期)
グローバル会員数成長率:+41.7% CAGR(過去5年)
展開国数:日本を含む14の国と地域(2025年8月現在)
白衣とスクラブは、世界中でほぼ同じかたちをしています。サイズ感の地域差が少なく、現地に合わせたデザイン変更も最小限で済む。日本の厳しい品質基準(洗濯耐久性・素材開発)をクリアした製品は、海外では「Japan Quality」として希少価値を持ちます。
台湾での越境ECから代理店開拓へという成功モデルをもとに、他国へ横展開する再現性。この「勝ちパターンの複製」が、投資家にアップサイドを確信させました。
【起業家への問い】あなたの「One Big Idea」は何か?
クラシコの事例が教えてくれることは、一つです。
投資家が買うのは、今の業績ではなく、「未来の物語」です。
どれだけニッチな市場でも、どれだけ成熟した産業でも、「何を変えようとしているのか」という問いに、シンプルかつ強烈に答えられる企業が、高いバリュエーションを手にします。クラシコは、17年かけてその答えを数字で証明してみせました。それが、最も強力なエクイティストーリー(equity story)の本質です。
いまから、会社設立をして、資金調達や上場を目指す起業家の皆さま。
あなたの事業計画書は、投資家が一言で誰かに説明できる、「シンプルで、記憶に残るストーリー」になっていますか?
その「物語」を、一緒に作りませんか?
スタートアップ東京は、スタートアップ専門の会社設立サービスです。会社設立を資本政策のスタートとして捉え、IR活動も支援。
まずは無料相談で、あなたのビジョンをお聞かせください。スタートアップ支援実績が豊富な公認会計士・税理士がお話をお伺いします。
原田 潤(Jun Harada)
公認会計士・税理士。監査法人にてIPO支援、野村證券企業情報部にてM&Aアドバイザリー、ヤフー・ライブドアにて経営企画・M&Aを歴任後、起業。現在は神宮前あおば税理士法人で、持続可能な企業価値向上をテーマに、スタートアップ企業を支援。上場会社の社外役員を歴任。